、知らず知らず彼はその中へ捲込《まきこ》まれて行った。何時《いつ》まで経ったら、夫と妻の心の顔が真実《ほんとう》に合う日が有るだろう。そんなことを考えるさえ、彼は厭《いと》わしそうな眼付をした。
 夫としての三吉は、妻の変らない保護者で有った。しかし好い話相手では無かった。妙に、彼はお雪の前に長く坐っていられなかった。すこし長く妻と話をして居ると、もう彼は退屈して了った……こういう性分の三吉に比べると、もっと心易い人が世の中にはある。そういう人が階下へ来て、皆なを笑わせることも有る。それを三吉は二階から聞く度《たび》に、侘《わび》しい心を起した。どうかすると、彼は階梯《はしごだん》を馳《か》け降りるようにして、そういう人の手から自分の子供を抱取ることも有った。
「人の細君をつかまえて、雪さんなどと平気で書いて寄す男もある」
 と三吉は思ってみた。そういう人が妻には親切な面白い人のように言われても、その無邪気さを三吉はどうすることも出来なかった。
 すこしの言葉の争いから、お雪は鬱《ふさ》いで了うことが多かった。すると、三吉は二階から下りて、時には妻の前に手を突いて、「何卒《どうか》まあ
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