言うことをよく聞いて置いて、橋本の家を興してくれるが可いぞや……ええ、ええ、それを忘れるようなことじゃ、申訳が無いで……」
こうお種は言いかけたが、興奮のあまり声が咽喉《のど》へ乾干《ひから》び付いたように成った。豊世も姑《しゅうとめ》の側に考深い眼付をして、女持の煙管《きせる》で煙草を燻《ふか》していた。
「今までの家風は、皆なが言うことを言わなさ過ぎたと思いますわ」と豊世は顔を揚げて、「母親さん、これから皆なでもっと言うことにしようじゃ有りませんか」
軽い、無邪気な、お仙の笑声が起った。
漸《ようや》く、一同、笑って話すことが出来るように成った。森彦も愛嬌《あいきょう》のある微笑《えみ》を見せて、
「なんでも人間は信用が無くちゃ駄目だ。俺なんかも、十年一日のごとしで、志ばかり徒《いたずら》に大きいようなものだが、信用を失わないように心掛けているんで持ってる……」
「そうサ。お前は酒も飲まず、煙草も服《の》まず――そこは一寸|真似《まね》の出来ないところだ」とお種が言った。
「これで何だぞい、俺は旅舎生活《やどやぐらし》を始めてから、唯の二度しか引手茶屋へも遊びに行ったことが無
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