》を歩いていた。
電車は通り過ぎた。
「小泉さんはおいでですか」
三吉は森彦の旅舎《やどや》へ行って訪ねた。そこでは内儀《おかみ》さんが変って、女中をしていた婦人が丸髷《まるまげ》に結って顔を出した。
電話口に居た森彦は、弟の三吉と聞いて、二階へ案内させた。部屋にはお俊も来合せていた。森彦は電話の用を済まして、別の楼梯《はしごだん》から上って来た。
三吉はお俊と不思議な顔を合せた。殊《こと》に厳格な兄の前では、いかにも姪《めい》の女らしい黙って視ているような様子がツラかった。彼は、夏中手伝いに来ていて貰った時のような、親しい、楽々とした気分で、この娘と対《むか》い合うことが出来なかった。何となく堅くなった。
「森彦叔父さん、私は学校の帰りですから」とお俊が催促するように言った。
「そうかい。じゃ着物は宜しく頼みます。母親《おっか》さんにそう言って、可いように仕立てて貰っておくれ」
旅舎生活《やどやずまい》する森彦は着物の始末をお俊の家へ頼んだ。お俊は長い袴《はかま》の紐《ひも》を結び直して、二人の叔父に別れて行った。
漸《ようや》く三吉は平常《いつも》の調子に返って、一日家を探し歩いたことを兄に話した。直樹《なおき》が家の附近は、三吉も少年時代から青年時代へかけての記憶のあるところで、同じ町中を択《えら》ぶとすれば、なるべく親戚や知人にも近く住みたい。それには、旧時《もと》直樹の家に出入した人の世話で、一軒二階建の家を見つけて来た。こんな話をした。
「時に、延もお愛ちゃんの学校へ通わせることにしました」と三吉が言った。「その方があの娘《こ》の為めにも好さそうです」
森彦は自分の娘が兄の娘に負けるようでは口惜《くや》しいという眼付をした。
「まあ、学校の方のことは、お前に任せる……俺の積りでは、延に語学をウンと遣らせて、外交官の細君に向くような娘を造りたいと思っていた。行く行くは洋行でもさせたい位の意気込だった……」
「娘の性質にもありますサ」
「俺の娘なら、もうすこし勇気が有りそうなものだ。存外ヤカなもんだ」
と森彦は田舎訛《いなかなまり》を交えて、自分の子が自分の自由に成らないに、歎息した。
「実さんの家でも越すそうじゃ有りませんか」
「そうだそうな。どうも兄貴にも困りものだよ。一応俺に相談すればあんな真似《まね》はさせやしなかった。その為に俺
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