緒に読んだ。その時、お種は幸作に吩咐《いいつ》けて、家に残った陶器なぞを取出させて、弟に見せた。薬の客に出す為に特に焼かせたという昔の茶呑《ちゃのみ》茶椀から、達雄が食った古雅な模様のある大きな茶椀まで、大切に保存してあった。
「叔父さん、こんなものが有りましたが、お目に掛けましょうか」
 と豊世は煤《すす》けた桐の箱を捜出して来た。先祖が死際《しにぎわ》に子供へ遺《のこ》した手紙、先代が写したらしい武器、馬具の図、出兵の用意を細く書いた書類、その他種々な古い残った物が出て来た。
 三吉はその中に「黒船」の図を見つけた。めずらしそうに、何度も何度も取上げて見た。半紙程の大きさの紙に、昔の人の眼に映った幻影《まぼろし》が極く粗《あら》い木版で刷《す》ってある。
「宛然《まるで》――この船は幽霊だ」
 と三吉は何か思い付いたように、その和蘭陀船《オランダぶね》の絵を見ながら言った。
「僕等の阿爺《おやじ》が狂《きちがい》に成ったのも、この幽霊の御蔭ですネ……」と復た彼は姉の方を見て言った。
 お種は妙な眼付をして弟の顔を眺《なが》めていた。
「や、こいつは僕が貰って行こう」
 と三吉はその図だけ分けて貰って、お雪の手紙と一緒に手荷物の中へ入れた。
 叔父の出発は豊世に取って好い口実を与えた。こういう機会でも無ければ、彼女は容易に母を置いて行くことも出来ないような人であった。
「叔父さん、お願いですから私も連れてって下さいませんか。私も仕度しますわ」
 と豊世は無理やりに叔父に頼んで、自分でも旅の仕度を始めた。
 三吉はすこし煩《うるさ》そうに、「実は、僕は独《ひと》りで行きたい。それに他《ひと》の細君なぞを連れて行くのも心配だ」
「心配だと思うなら止《よ》すが可いぞや」とお種が言った。
「何でも私は随《つ》いてく」と豊世は新座敷の方から。
「じゃ、汽車に乗るところまで送って進《あ》げよう」と三吉も引受けた。
 いよいよ別れると成れば、余計にお種は眠られない風であった。その晩、姉は奥座敷に休んで弟と一緒に遅くまで話した。姉の様子も気がかりなので、一旦《いったん》枕に就《つ》いた三吉は復た巻煙草を取出した。彼は先ずお仙の話をした。あれまでに養育したは姉が一生の大きな仕事であったと言った。薬の紙を折らせることも静かな手細工を与えたようなもので、自然と好い道を取って来たなどと言
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