ん》なぞに眠られたものだと思いましたよ。そればかりじゃありません、宅で向島親子を芝居に連れてく約束をして、のッぴきならぬ交際《つきあい》だから金を作れと言うじゃ有りませんか。私はそんな金を作るのはイヤですッて、そう断りました。すると、宅が癇癪《かんしゃく》を起して、いきなり私を……叔父さん、私は擲《なぐ》られた揚句に、自分の着物まで質に入れて……」
豊世はもう語れなかった。瀟洒《しょうしゃ》な襦袢《じゅばん》の袖を出して、思わず流れて来る涙を拭《ぬぐ》った。
「叔父さん――真実《ほんと》に教えて下さいませんか――どうしたら男の方の気に入るんでしょうねえ」
と復た豊世は力を入れて、真実|男性《おとこ》の要求を聞こうとするように、キッと叔父を見た。
「どうしたら気に入るなんて、私にはそんなことは言えません」と三吉は頭を垂れた。
「でも、ねえ、叔母さん――」と豊世はお雪に。
「亭主を離れて観るより外に仕方が無いでしょう」と三吉はどうすることも出来ないような語気で言った。
「そんなら、叔父さんなんか、どういう気分の女でしたら面白いと御思いなさるんですか」
「そうですネ」と三吉は笑って、「正直言うと、これはと思うような人は無いものですネ……昔の女の書いたものを見ると、でも面白そうな人もある。八月のさかりに風通しの好いところへ花莚《はなむしろ》を敷いて、薄化粧でもして、サッパリとした物を着ながら独《ひと》りで寝転《ねころ》んで見たなんて――私はそういう人が面白いと思います」
豊世とお雪は顔を見合せた。
子供の喧嘩《けんか》する声が起った。それを聞きつけて、お雪は豊世と一緒に階下《した》へ降りた。茶の用意が出来たと言われて、三吉も下座敷へ飲みに来た。
「馬鹿野郎!」
いきなり種夫はそいつを父へ浴せ掛けた。
「種ちゃんは誰をつかまえても『馬鹿野郎』だ」と三吉は子供を見て笑った。「でも、お前の『馬鹿野郎』は可愛らしい『馬鹿野郎』だよ」
「種ちゃんの口癖に成って了いました」とお雪は豊世に言って聞かせた。「御客のある時なぞは、真実《ほんと》に困りますよ」
「豊世さん、煙草はいかが」
と三吉は巻煙草を取出して、女の客や妻の前でウマそうに燻《ふか》した。
「一本頂きましょうか」と豊世は手を出した。「自分じゃそう吸いたいとも思いませんが、他様《ひとさま》が燻していらっしゃると、
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