方ですか」
「ええ、毎年一度や二度は出て来なけりゃ成りません」と勉は商人らしい調子で言った。「時に小泉さん、※[#「※」は「○の中にナ」、189−6]の兄さんから御言伝《おことづけ》がありましたが、貴方の御宅でも女中が御入用《おいりよう》だそうですから――近いうちに一人連れて御出掛に成るそうです」
「そうですか、そいつは難有《ありがた》い。名倉の兄さんもどうしてますかネ。相変らず御店の方ですかネ」
「大将も多忙《いそが》しがっています」
こんな調子で、三吉は打解けて話した。彼はお雪を傍へ呼んで、勉を款待《もてな》させて、復た正太の居る方へ上って行った。
「ええ、福ちゃんの旦那さんです。彼方《あっち》の方の人達は大阪の商人《あきんど》に近いネ。皆な遣方《やりかた》がハゲしい」
と三吉は正太の前に復《もど》って言った。
未だ正太は思わしい仕事も無く、ブラブラしていた。骨を折って口を見つけに飛び歩こうともしていなかった。彼はいくらか窶《やつ》れても見えた。謡《うたい》の会の噂、料理の通、それから近く欧洲を漫遊し帰って来たある画家の展覧会を見たことなど、雪の日らしい雑談をした後で、正太は帰って行った。
修業ざかりの娘を二人まで控えた森彦の苦んでいる姿が、三吉の眼にチラついた。彼は兄を助けずにいられないような気がした。名倉の両親に隠すようにして金をつくることを考えた。
※[#「※」は「○の中にナ」、190−5]の兄と連立って、名倉の母が長逗留《ながとうりゅう》の東京を去る頃は――三吉は黙って考えてばかりいる人でもなかった。「随分、父さんはコワい眼付をする」と名倉の母はよく言ったが、そういう眼付で膳に対って、飯を食えば直に二階へ上って行って了うような――最早そんな人でもなかった。
時には、楼梯《はしごだん》を踏む音をさせて、用もないのに三吉は二階から降りて来た。下座敷の柱に倚凭《よりかか》って、
「お雪、俺とお前と何方《どっち》が先に死ぬと思う」
「どうせ私の方が後へ残るでしょうから、そうしたら私はどうしよう――何にも未だ子供のことは為《し》て無いし――父さんの書いた物が遺《のこ》ったって、それで子供の教育が出来るか、どうか、解らないし(まあ、覚束《おぼつか》ないと思わなけりゃ成りません、何処の奥さんだって困っていらっしゃる)と言って、女の教師なぞは私の柄に無い
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