や、毎度《いつも》どうも――」
 と名倉の老人は正太に挨拶《あいさつ》した。気象の壮《さか》んなこの人でも、寄る年波ばかりは争われなかった。髯《ひげ》は余程白かった。
 二階へ上って、叔父と一緒に茶を飲む頃は、正太は改まってもいなかった。旅から日に焼けて来た叔父の顔を眺《なが》めながら、
「時に、叔父さん、吾家《うち》の阿爺《おやじ》も……いよいよ満洲の方へ行ったそうです」
 こんなことを正太が言出したので、三吉は仕掛けた旅の話を止《や》めた。
「阿爺もネ――」と正太は声を低くして、「ホラ、長らく神戸に居ましたろう。何か神戸でも失敗したらしい。トドのツマリが満洲行と成ったんです……実叔父さんを頼って行ったものらしいんです……実は私も知らずにおりました。昨夕《ゆうべ》お倉叔母さんが見えまして――あの叔母さんも、お俊ちゃんはお嫁さんに成るし、寂しいもんですから、吾家《うち》で一晩泊りましてネ――その時、話が有りました。実叔父さんから手紙で阿爺のことを知らせて寄したそうです……」
 橋本の達雄と小泉の実とが満洲で落合ったということは、話す正太にも、聞く三吉にも、言うに言われぬ思を与えた。つくづく二人は二大家族の家長達の運命を思った。
 三吉は旅の話に移った。一週間ばかり家を離れたことを話した。山間の谿流《けいりゅう》の音にしばらく浮世を忘れた連の人達も、帰りの温泉宿では家の方の話で持切って、皆な妻子を案じながら帰って来たなどと話した。
 古い港の町、燈台の見える海、奇異《きたい》な女の風俗などのついた絵葉書が、そこへ取出された。三吉は思いついたように、微笑《えみ》を浮べながら、
「どうです、向島へ一枚出してやろうじゃ有りませんか」
 叔父の戯を、正太も興のあることに思った。彼は自分で小金の宛名《あてな》を認《したた》めて、裏の白い燈台の傍には「御存じより」と書いた。この「御存じより」が三吉を笑わせた。彼も何か書いた。
 三吉は立ちがけに、
「豊世さんが聞いたら苦い顔をすることだろうネ……」
 こう言って復《ま》た笑った。
 正太はヒドく元気が無かった。絵葉書を懐中《ふところ》にしながら階下《した》へ降りて、名倉の老人の側を通った。三吉も、勝手の方で働いているお雪に言葉を掛けて置いて、甥《おい》と一緒に歩きに出た。


 蔵つづきの間にある狭い路地を通り抜けて、二人は白壁の
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