の内へ入れてから言った。「お前は今夜、是方《こっち》で泊ってくれるだろうネ」
「ええ、とにかく行って坊主を置いて来ます――それから復たやって来ましょう」
「ああそうしておくれ。弱い子供だから、お雪さんが心配すると不可《いけない》。ワンワンも持たせてやりたいが、可いわ、私がまた訪ねる時にお土産《みや》に持って行かず」
三吉は眠そうな子供を姉の手から抱取った。
「坊ちゃまのお下駄《げた》はいかがいたしましょう」と老婆が言葉を添える。
「ナニ、構いませんから、新聞に包んで私の懐中《ふところ》へ捩込《ねじこ》んで下さい」
こう三吉は答えて、「種ちゃん、吾家《おうち》へ行くんだよ」と言い聞かせながら、子供を肩につかまらせて出た。種夫は眠そうに頭を垂れて、左右の手もだらりと下げていた。
「まあ御可愛そうに、おねむでいらッしゃる」と老婆が言った。
三吉が自分の家へ子供を運んで置いて、復た電車で引返して来た頃は、半鐘が烈《はげ》しく鳴り響いていた。細い路地や往来は人で埋まった。お仙が居なく成ったというさえあるに、加《おまけ》に火事とは。三吉は仰天して了《しま》った。火は正太の家から半町ほどしか離れていなかった。
「これはまあ何という事だ」
というお種の言葉を聞捨てて、三吉は二階へ駆上った。続いてお種も上って来た。
雨戸を開けて見ると、燃え上る河岸《かし》の土蔵の火は姉弟の眼に凄《すさま》じく映った。どうやら、一軒で済むらしい。見ているうちに、すこし下火に成る。
「もう大丈夫」
と正太も階下《した》から上って来た。三人は無言のまま、一緒に火を眺めて立っていた。雨戸を閉めて置いて、三人は階下へ下りた。まだ往来は混雑していた。石段を上って来て、火事見舞を言いに寄るものもあった。正太は心の震動《ふるえ》を制《おさ》えかねるという風で、
「叔父さん、済みませんが下谷《したや》の警察まで行って下さいませんか……浅草の警察へは今届けて来ました」
「お仙も」とお種は引取って、「ああいう神様か仏様のようなやつだから、存外無事で出て来るかも知れないテ」
「お仙ちゃんは、ここの番地を覚えていますまいね」と三吉が聞いた。
「どうも覚えていまいテ」とお種は歎息する。
「なかなか車に乗るという智慧《ちえ》は出そうもない――おまけに、一文も持っていない」と正太も附添《つけた》した。
三吉は思い付い
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