えて見ました。いずれこれは、何処《どこ》かの温泉場へ阿爺を呼寄せて、そこで会見しようという希望が、母親さんに有るらしいんです……どうもそうらしい……唯母親さんが出て来るものとは、どうしても私に思われません」
 猶《なお》、的確《たしか》に言うために、正太は幸作から近く来た手紙の模様を叔父に話した。両親が、世間へは内証で、互に消息を通わせていることをも話した。
「母親さんからどういう手紙が行くものですか、それは解りませんが――」と正太はその話を継いで、「阿爺の手紙は、豊世が受取って、それから母親さんの方へ取次いでいます。時々、私も目を通します……」
「どんな風に、君の父親《おとっ》さんからは書いて寄すものかネ」と三吉が聞いた。
「あの年齢《とし》に成って、ああいう手紙を交換《とりかわ》してるものかと思うと、驚く……」と言って、正太は歎息して、「私達が書く手紙なぞとは、全然《まるっきり》違ったものなんです」
「どうでしょう、仮に、達雄さんが郷里《くに》へ帰ったとしたら――」
「そりゃ、叔父さん、阿爺が帰れば必ず用いられます――土地に人物は少いんですからネ。そこです。用いられれば、必ず復《ま》た同じことを繰返します。そりゃあ、もう目に見えています」
 叔父に逢って談話《はなし》をして見ると、正太は頭脳《あたま》がハッキリして来た。父の家出――つづいて起った崩壊の光景――その種々《さまざま》の記憶が彼の胸に浮んで来た。三吉の方でも、甥《おい》の顔を眺めているうちに、何となく空恐しい心地《こころもち》に成った。
「こりゃ姉さんにも、すこし考えて貰わんけりゃ成らんネ」と三吉が言出した。
 正太は力の籠《こも》った語気で、「ですから、私は母親さんを引留めようと思います……」
「大きにそうだ。今ここで、下手に会見なぞさせる場合では無いネ」
「もし母親さんが是方《こちら》へ参りましたら、叔父さんからもよく話して遣《や》って下さい」
 お種が帰らない夫を待つことは、最早《もう》幾年に成る、とその時三吉も数えて見た。娘お仙を夫に逢わせて見たら、あるいは――一旦《いったん》失われた父らしい心胸《こころ》を復た元へ引戻すことも出来ようか――離散した親子、夫婦が集って、もう一度以前のような家を成したい――こう彼女が、一縷《いちる》の希望を夫に繋《つな》ぎながら、心|竊《ひそ》かに再会を期して上
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