せた。
「折角、姉さんに来て頂いたんですけれど、今日は困りましたナア」
 と三吉は額に手を宛てた。とにかく、増額を承諾した。金は次の日お俊に取りに来るようにと願った。
 お俊が縁談も出た。
「御蔭様で、結納《ゆいのう》も交換《とりかわ》しました。これで、まあ私もすこし安心しました」
 とお倉はお雪の方を見て言った。
 この縁談が纏《まと》まるにつけても、お俊の親に成るものは森彦と三吉より他に無かった。森彦の発議で、二人はお俊の為に互に金を出し合って、一通りの結婚の準備《したく》をさせることにした。
「姉さん、まあ御話しなすって下さい。私は多忙《いそが》しい時ですから一寸失礼します」
 こう言い置いて、三吉は二階の部屋へ上って行った。
 仕事は碌《ろく》に手につかなかった。三吉が歩きに行って来た方から射し込む日は部屋の障子に映《あた》った。河岸の白壁のところに見て来た光は、自分の部屋の黄ばんだ壁にもあった。それを眺めていると、仕事、仕事と言って、彼がアクセクしていることは、唯身内の者の為に苦労しているに過ぎないかとも思わせた。


「一寸俺は用達《ようたし》に行って来る。着物を出してくんナ」
 三吉は二階から下りて来て、身仕度《みじたく》を始めた。お倉は未だ話し込んでいた。お雪は白足袋《しろたび》の洗濯したのを幾足か取出して見て、
「一二度外へ行って来ると、もうそれは穿《は》かないんですから、幾足あったって堪《たま》りませんよ」
 こんなことを言って笑いながら、中でも好さそうなのを択《よ》って夫に渡した。三吉は無造作に綴合《とじあわ》せた糸を切って、縮んだ足袋を無理に自分の足に填《は》めた。
「姉さん」と三吉はコハゼを掛けながら、「満洲の方から御便は有りますか」
「ええ、無事で働いておりますそうです――皆さんにも宜《よろ》しく申上げるようにッて先頃も手紙が参りました」
「ウマくやってくれると可《よ》う御座んすがナア」
「さあ、私もそう思っています」
「まだ家の方へ仕送りをするというところまでいきませんかネ」
「どうして……でも、まあ彼方《あちら》に親切な方が有りまして、よく見て下さるそうです」
 頼りないお倉は「親切な」という言葉に力を入れ入れした。嫂を残して置いて、三吉は家を出た。
 森彦は旅舎《やどや》の方に居た。丁度弟が訪ねて行った時は、電話口から二階の部屋へ戻
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