為には随分働きもしたもので、他《ひと》の嫌《いや》がる帳簿は二晩も寝ずに整理したことを叔父に話した。彼は又、相場師生活の一例として、仕立てたばかりの春衣《はるぎ》が仕附糸《しつけいと》のまま、年の暮に七つ屋の蔵へ行くことなどを話した。
「そう言えば、今は実に可恐《おそろ》しい時代ですネ」と正太は思出したように、「此頃《こないだ》、私がお俊ちゃんの家へ寄って、『鶴ちゃん、お前さんは大きく成ったらどんなところへお嫁に行くネ』と聞きましたら――あんな子供がですよ――軍人さんはお金が無いし、お医者さんはお金が有っても忙しいし、美《い》い着物が着られてお金があるから大きな呉服屋さんへお嫁に行きたいですト――それを聞いた時は、私はゾーとしましたネ」
こんな話をしているうちに、料理が食卓の上に並んだ。小金が来た。小金は三吉に挨拶《あいさつ》して、馴々《なれなれ》しく正太の傍へ寄った。親孝行なとでも言いそうな、温順《おとな》しい盛りの年頃の妓《おんな》だ。
「橋本さん、老松《おいまつ》姐《ねえ》さんもここへ呼びましょう――今、御座敷へ来てますから」
と言って、小金は重い贅沢《ぜいたく》な着物の音をさせながら出て行った。
土地に居着《いつき》のものは、昔の深川芸者の面影《おもかげ》がある。それを正太は叔父に見て貰いたかった。こういうところへ来て、彼は江戸の香を嗅《か》ぎ、残った音曲を耳にし、通人の遺風を楽しもうとしていた。
小金、老松、それから今一人の年増が一緒に興を添えに来た。老松は未だ何処かに色香の名残《なごり》をとどめたような老妓で、白い、細い、指輪を嵌《は》めた手で、酒を勧《すす》めた。
「老松さん、今夜はこういう客を連れて来ました」と正太が言った。「御馳走《ごちそう》に何か面白い歌を聞かせて進《あ》げて下さい」
老松は三吉の方を見て、神経質な額と眼とで一寸《ちょっと》挨拶した。
「どうです、この二人は――何方《どっち》がこれで年長《としうえ》と見えます」と復た正太が言った。
「老松姐さん、私は是方《こちら》の方がお若いと思うわ」と小金が三吉を指して見せた。
「私もそう思う」と老松は三吉と正太とを見比べた。
「ホラ――ネ。皆なそう言う」と正太は笑って、「これは私の叔父さんですよ」
「是方《こちら》が橋本さんの叔父さん?」老松は手を打って笑った。
「叔父さんは好かった
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