うなことまで考えて、種々《いろいろ》と正太の為に取越苦労をしていた。
「若いもののことですもの、お前さん、どんな間違がないとも限りませんよ――もし、子供でも出来たら。それを私は心配してやる」
 こうお種は言って、土地の風俗を蔑視《さげす》むような眼付をした。楽しそうな御輿の響は大切な若い子息《むすこ》を放縦《ほしいまま》な世界の方へと誘うように聞える……お種は正太のことを思ってみた。誰と一緒に、何処を歩いている、と思ってみた。そして、何の思慮も無い甘い私語《ささやき》には、これ程心配している親の力ですら敵《かな》わないか、と考えた。
「私が彼《あれ》に言って聞かせて、父親《おとっ》さんも女のことでは度々|失敗《しくじり》が有ったから、それをお前は見習わないように、世間から後指《うしろゆび》を差されないようにッて――ネ、種々《いろいろ》彼に言うんだけれど……ええええ、彼はもう父親さんのワルいことを何もかも知ってますよ」
 三吉は黙って姉の言うことを聞いていた。お種は更に嘆息して、
「旦那もね、お前さんの知ってる通り、好い人物《ひと》なんですよ。気分は温厚《すなお》ですし、奉公人にまで優し
前へ 次へ
全293ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング