れば成らないというので、下女も連れなかった。お房やお菊は元気で、親達に連れられて始めての道を歩いたが、お繁の方は酷《ひど》く旅に萎《しお》れた様子で、母の背中に頭を持たせ掛けたまま、気抜のしたような眼付をしていた。時々お雪は立止って、めずらしそうに其処是処《そこここ》の光景《さま》を眺めながら、
「繁ちゃん、御覧」
 と背中に居る子供に言って聞かせた。お繁は何を見ようともしなかった。
 郊外は開け始める頃であった。三吉が妻子を連れて移ろうとする家の板葺《いたぶき》屋根は新緑の間に光って見えて来た。



底本:「家(上)」新潮文庫、新潮社
   1955(昭和30)年5月10日発行
   1968(昭和43)年6月30日17刷改版
   1998(平成10)年9月5日51刷
※底本は、35ページ9行目で鳳凰の「凰」の「白」を「百」と作っています。作字上の誤りと判断し、「凰」をあてました。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のまま
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