だった。谷々の氾濫《はんらん》した跡は真白に覆《おお》われていた。
 訪ねて行った友達は牧野と言って、辺鄙《へんぴ》な山村に住んでいた。ふとしたことから三吉はこの若い大地主と深く知るように成ったのである。そこへ訪ねて行く度に、この友達の静かな書斎や、樹木の多い庭園や、好く整理された耕地など――それを見るのを三吉は楽みにしていたが、その日に限っては心も沈着かなかった。主人を始め細君や子供まで集って、広い古風な奥座敷で話した。この温い家庭の空気の中で、唯三吉は前途のことを思い煩《わずら》った。事情を打開けて、話してみようと思いながら、翌日に成ってもついそれを言出す場合が見当らなかった。
 到頭、三吉は言わず仕舞に牧野の家の門を出た。そして、制《おさ》えがたい落胆と戦いつつ、元来た雪道を帰って行った。一時間あまり乗合馬車の立場《たてば》で待ったが、そこには車夫が多勢集って話したり笑ったりしていた。思わず三吉も喪心した人のように笑った。やがて馬車が出た。沈んだ日光は寒い車の上から彼の眼に映った。林の間は黄に耀《かがや》いた。彼は眺め、かつ震えた。
 家へ帰ってからも、三吉はそう委《くわ》しいこ
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