した。
「橋本さんは是方《こちら》ですか」
店頭《みせさき》の玻璃戸に燈火《あかり》の映る頃、こう言って訪ねて来たのは三吉であった。丁度お種や豊世は買物を兼ねてぶらぶら町の方へ歩きに行った留守の時で、二階を貸している内儀《かみさん》が出て挨拶《あいさつ》した。
三吉は自分の旅舎《やどや》の方で姉を待つことにして、皆なと一緒に落合いたいと言出した。「では、御待ち申していますから、明日の夕方からでも訪ねて来るように」こう内儀に言伝《ことづて》を頼んだ。
やがて三吉は自分の旅舎を指して引返して行った。その夏、彼は妻の生家《さと》の方まで遠く行く積りで、名倉の両親を始め、多くの家族を訪ねようとして、序《ついで》に一寸《ちょっと》東京へ立寄ったのであった。
久し振で出て来た三吉は翌日《あくるひ》一日宿に居て、親戚のものを待受けた。森彦は約束の時間を違《たが》えずやって来た。三吉はこの兄を二階の座敷へ案内した。そこに来ていたお雪の二番目の妹にあたるお愛にも逢わせた。
「名倉さんの?」と森彦は三吉の方を見て、「先《せん》に修業に来ていた娘はどうしたい」
「お福さんですか。あの人は卒業して
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