はどう思わっせるか知らんが……私は三吉の今度来たのが彼の子の為めにも好からずと思って……」
「俺も、まあそう思ってる」
この様な言葉を交換《とりかわ》した。不図、お種は洋燈《ランプ》の置いてある方へ寄って、白い、神経質らしい手を腕の辺まで捲《まく》って見て、蚤《のみ》でも逃がしたように坐っていたところを捜す。
「痒《かゆ》い痒いと思ったら、こんなに食いからかいて」とお種は単衣《ひとえ》の裾《すそ》の方を掲《から》げながら捜してみた。
「そうどうも苦にしちゃ、えらい」と達雄は笑った。
「一匹居ても、私は身体中ゾクゾクして来る」
こうお種は言って、若い時のような忍耐《こらえしょう》は無くなったという風で、やがて笑いながら台所の方へ出て行った。
三吉が東京から訪ねて来たことは、達雄に取っても嬉しかった。彼は親身《しんみ》の兄弟というものが無い人で、日頃お種の弟達を実の兄弟のように頼もしく思っている。三吉が来た為に、種々《いろいろ》話が出る。話が出れば出るほど、種々な心地《こころもち》が引出される。子に対する達雄の心配も一層深く引出された形である。
平素潜んでいたようなことまで達雄の胸
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