――貴方はそんな頭髪《あたま》をしていらっしゃるから旦那に捨てられるんです」
お種が部屋を出て、二階の欄干《てすり》から温泉場の空を眺めていると、こんな串談《じょうだん》を言いながら長い廊下を通る人が有った。隣室の客だ。林夫婦は師走《しわす》の末に近くなって復た東京から入湯に来ていた。
豊世と一緒に成った頃から、お種は髪を結う気も無く、無造作に巻きつけてばかりいたが、男の口からこんな言葉を聞いた時は酷《ひど》く気に成った。
「捨てられたと思って貰うと、大きに違う……私は旦那に捨てられる覚えは無いで……」
と腹の中で言ってみた。他《ひと》から見れば最早そんな風に思われるか、とも考えた。彼女は林が戯れて言うとも思えなかった。
部屋へ戻ると、豊世は入替りに出て行った。姑《しゅうとめ》と嫁とが一緒に成って、国の方の話を始めると、必《きっ》と終《しまい》には両方で泣いて了う。二人は互に顔を合せているのも苦《くるし》かった。町へ――漁村へ――近くにある古跡へ――さもなければ隣室に居る家族、その他この温泉宿で懇意に成った浴客の許《ところ》へ遊びに行くことを勉《つと》めて、二人ぎり一緒に居るこ
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