して、もう一度弟の家族を見ようとした頃は、汽車は停車場を離れて了《しま》った。田舎《いなか》の子供らしく育ったお房の紅い頬《ほお》、お菊を抱いて立っているお雪の笑顔、三吉の振る帽子――そういうものは直にお種の眼から消えた。
「漸《やっ》とこれで私も思が届いた」とお種も言ってみて、やがて窓のところに倚凭《よりかか》った。
 しばらく達雄夫婦の話は三吉等の噂《うわさ》で持切った。旅と思えば、お種も気を張って、平常《いつも》より興奮した精神《こころ》の状態《ありさま》にあった。なるべく彼女は弱った容子《ようす》を夫に見せまいとしていた。その日は達雄も酷《ひど》く元気が無かった。しかし、夫はまた夫で、それを外部《そと》へは表すまいと勉めていた。
 汽車が山を下りた頃、隣の室の客で、窓から乳を絞って捨てる女が有った。お種はそれを見て子の無い自分の嫁のことを思出した。彼女は忰《せがれ》や、嫁や、それから不幸な娘などから最早《もう》余程離れたような気がした。
 この旅はお種に不安な念《おもい》を抱《いだ》かせた。何ということはなしに、彼女は心細くて心細くて成らなかった。彼女の衰えた身体《からだ》は、
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