この二人の暗いところで流す涙を、三吉は黙って、遅くまで聞いた。
頑固《かたくな》な三吉が家を解散すると言出すまでには、離縁の手続、妻を引渡す方法、媒妁人《なこうど》に言って聞かせる理由、お雪の荷物の取片付、それから家を壊した後の生活のことまでも想像してみたので、一度それを口にしたら、容易に譲ることの出来ないという彼の心も、いくらか和《やわら》げられたような日が来た。「君の志は有難い――まあ、僕もよく考えてみよう」こう三吉は直樹に言って、それから復た学校の方へ出掛けたが、帰って来てみると、曾根からの葉書が舞込んでいた。彼女も避暑地を発《た》つ、奥様へ宜敷、房子様へも宜敷、と認《したた》めてあった。三吉から出した手紙は東京へ宛てたので、未だ曾根は知る筈《はず》がない。そんな手紙が待つとは知らずに、彼女は帰京を急ぐのであった。
到頭、三吉も譲歩した。家の解散も見合せることにしたと言出した。それを聞いて、お雪はホッと息を吐《つ》いた。直樹も漸《ようや》く安心したという顔付で、三吉が自分の意見を容《い》れたことを喜んだ。
「姉さん、浅間の話でもしましょう」
と直樹は勇ましそうに笑ながら言っ
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