、その手紙のことに就いては、「そんなことを為《な》さらないたッても可いでしょうに……」と言ってみた。
その時、お雪は不思議そうに夫の顔を熟視《みまも》って、「誰も暇が貰いたくて、下さいと言うものは有りゃしません」と眼で言わせていた。復た彼女は台所の方へ行って働いた。
湯から帰って来た直樹は、縁側に出て、奥の庭を眺めた。庭の片隅《かたすみ》には、浅間から採って来た植物が大事そうに置いてあった。それを直樹は登山の記念として、東京への好い土産だと思っている。
この温和《すなお》な青年の顔を眺めると、三吉は思うことを言いかねて、何度かそれを切出そうとして、反《かえ》って自分の無法な思想《かんがえ》を笑われるような気がした。
「直樹さん、すこし僕も感じたことが有って、吾家《うち》は解散して了おうかと思います」と三吉は話の序《ついで》に言出した。
直樹は答えなかった。そして、深い溜息《ためいき》を吐いた。常識と同情とに富んだこの青年の柔嫩《やわらか》な眼は自然《おのず》と涙を湛《たた》えた。
「君はどう思うか知らんが」と三吉は言淀《いいよど》んで、「どういうものか家がウマくいかない……僕の
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