吉は書いていた。
「お雪、すこしお前に読んで聞かせるものが有る……俺《おれ》が済むまで、お前も起きておいで」
 こう妻を呼んで言った。お雪は炉辺で独《ひと》り解《ほど》き物《もの》をしていた。小さな夏の虫は何処から来るともなく洋燈《ランプ》の周囲《まわり》に集った。
 お雪が鳴らしていた鋏《はさみ》を休めた頃は、十二時近かった。お福や書生は最早前後も知らずに熟睡している頃であった。
「何ですか」
 とお雪は不思議そうに夫の机の傍へ来た。
「こういうものを書いた、この手紙はお前にもよく聞いて貰わんけりゃ成らん」
 と言って、三吉は洋燈を机の真中に置直した。彼は平気を装おうとしたが、その実|周章《あわて》て了ったという眼付をしていた。声も度を失って、読み始めるから震えた。とはいえ、彼はなるべく静かに、解り易《やす》く読もうとした。
 お雪は耳を※[#「※」は「奇+攴」、第3水準1−85−9、93−2]《そばだ》てた。
「甚《はなは》だ唐突ながら一筆申上|候《そうろう》……かねてより御|噂《うわ》さ、蔭|乍《なが》ら承り居り候。さて、未だ御目にかからずとは申しながら腹蔵なく思うところを書き記
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