書生はよくお雪の手伝いをした。不慣な彼女が勝手で働いている間に、奥の方の庭までも掃除を済ました。バケツを提げて、その縁側へお雪が雑巾掛《ぞうきんがけ》に行ってみると、丁度|躑躅《つつじ》の花の盛りである。土塀《どべい》に近く咲いた紫と、林檎《りんご》の根のところに蹲踞《うずくま》ったような白とが、互に映り合て、何となくこの屋根の下を幽静《しずか》な棲居《すまい》らしく見せた。土塀の外にもカチャカチャ鍋《なべ》を洗う音などがした。向の高い白壁には朝日が映《あた》って来た。
 飯の用意も出来た。お雪は自分の手で造ったものを炉辺の食卓の上に並べて、夫にも食わせ、自分でも食った。書生も楽しく笑いながら食った。世帯を持って初めての朝、味噌汁《みそしる》も粗末な椀《わん》で飲《のん》だ。お雪が生家《さと》の知人《しりびと》から祝ってくれたもので、荷物の中へ入れて持って来た黒塗の箸箱《はしばこ》などは、この食卓に向きそうも無かった。
 やがて三吉や書生が学校へ行く時が来た。質素な田舎のことで、着て出る物も垢《あか》さえ着いていなければそれで間に合った。お雪は夫の為に大きな弁当箱を包んだ。こんな風に
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