て馬籠《まごめ》は馬籠《まごめ》らしいところが有《あ》ります。たとへば、末子《すゑこ》のやうなちひさな女《をんな》の子《こ》を呼《よ》ぶにも、
『末《すゑ》さま。』
と言《い》つたり、もつと親《した》しい間柄《あひだがら》で呼《よ》ぶ時《とき》には、
『末《すゑ》さ』
と言《い》つたりしまして、鄙《ひな》びた言葉《ことば》の中《なか》にも何處《どこ》か優《やさ》しいところが無《な》いでもありません。
父《とう》さんの田舍《ゐなか》には『どうねき』などといふ言葉《ことば》もあります。もう仕末《しまつ》におへないやうな人《ひと》のことを『どうねき』と言《い》ひます。こんな言葉《ことば》は木曾《きそ》にだけ有《あ》つて、他《ほか》の土地《とち》には無《な》いのだらうかと思《おも》ひます。それから、『わやく』といふやうな言葉《ことば》もあります。『いたずらな子供《こども》』といふところを『わやくな子供《こども》』などゝ言《い》ひます。
ふるさとの言葉《ことば》はこひしい。それを聞《き》くと、父《とう》さんは自分《じぶん》の子供《こども》の時分《じぶん》に歸《かへ》つて行《ゆ》くやうな氣《き》が
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