つては羽《はね》をひろげました。その度《たび》に舞《ま》ひ降《お》りるばかりでした。
雄鷄《おんどり》はもう高《たか》い聲《こゑ》で閧《とき》をつくるやうな勇氣《ゆうき》も挫《くじ》けまして、
『クウ/\、クウ/\。』
と拾《ひろ》ふ餌《え》もなくて鳴《な》きました。
そこへ山鳩《やまばと》が通《とほ》りかゝりました。山鳩《やまばと》は林《はやし》の中《なか》に聞《き》き慣《な》れない鷄《にはとり》の鳴聲《なきごゑ》を聞《き》きつけまして、傍《そば》へ飛《と》んで來《き》ました。百舌《もず》や鶸《ひは》とちがひ、山鳩《やまばと》は見《み》ず知《し》らずの雄鷄《おんどり》をいたはりました。
『もうすこしの辛抱《しんぼう》――もうすこしの辛抱《しんぼう》――』
と鳴《な》いて、山鳩《やまばと》は林《はやし》の奧《おく》の方《はう》へ飛《と》んで行《い》きました。
饑《かつ》えた雄鷄《おんどり》は一生懸命《いつしやうけんめい》に餌《え》を探《さが》しはじめました。他《ほか》の鳥《とり》に拾《ひろ》はれないうちに、自分《じぶん》で木《き》の實《み》や虫《むし》を見《み》つけるためには、否《いや》でも應《おう》でも飛《と》ばなければ成《な》りませんでした。その時《とき》になつて、初《はじ》めて雄鷄《おんどり》の羽《はね》が動《うご》いて來《き》ました。そして餌《え》らしい餌《え》にありつきました。
雄鷄《おんどり》はこの林《はやし》へ飛《と》びに來《き》て見《み》て、鷹《たか》があんな高《たか》い空《そら》を舞《ま》つて歩《ある》くのも、自分《じぶん》で餌《え》を見《み》つけに行《い》くのだといふことを知《し》りました。
三六 たなばたさま
三|月《ぐわつ》、五|月《ぐわつ》のお節句《せつく》は、樂《たの》しい子供《こども》のお祭《まつり》です。五|月《ぐわつ》のお節句《せつく》には、父《とう》さんのお家《うち》でも石《いし》を載《の》せた板屋根《いたやね》へ菖蒲《しやうぶ》をかけ、爺《ぢい》やが松林《まつばやし》の方《はう》から採《と》つて來《く》る笹《さゝ》の葉《は》で粽《ちまき》をつくりました。七|月《ぐわつ》になりますと、又《また》、たなばたさまのお祭《まつり》の日《ひ》が山《やま》の中《なか》の村《むら》へも來《き》ました。
たなばたさまのお祭《まつり
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