さが》し廻《まは》りまして、眼《め》についた水晶《すゐしやう》の中《なか》でも一番《いちばん》光《ひか》つたのを土産《みやげ》に持《も》つて歸《かへ》りました。

   三五 雄鷄《おんどり》の冒險《ばうけん》

若《わか》い雄鷄《おんどり》がありました。
他《ほか》の鷄《にはとり》と同《おな》じやうに、この雄鷄《おんどり》も人《ひと》の家《うち》に飼《か》はれて大《おほ》きくなりました。小《ちひ》さな雛《ひよ》ツ子《こ》の時分《じふん》から、雄鷄《おんどり》は自分《じぶん》で飛《と》べないものとばかり思《おも》つて居《ゐ》ましたが、だん/″\大《おほ》きくなるうちに、自分《じぶん》に生《は》えて居《ゐ》る羽《はね》を見《み》てびつくりしました。
雄鷄《おんどり》はまだ若《わか》くて元氣《げんき》がありましたから、こんな立派《りつぱ》な羽《はね》があるなら一つこれで飛《と》んで見《み》たいと思《おも》ふやうに成《な》りました。そこで林《はやし》の方《はう》へ出掛《でか》けて行《い》きまして、他《ほか》の鳥《とり》と同《おな》じやうに飛《と》ばうとしました。林《はやし》には百舌《もず》が遊《あそ》んで居《ゐ》ました。百舌《もず》は雄鷄《おんどり》の方《はう》を見《み》ては笑《わら》ひました。そこへ鶸《ひは》も舞《ま》つて來《き》ました。鶸《ひは》は雄鷄《おんどり》の方《はう》を見《み》て、百舌《もず》と同《おな》じやうに笑《わら》ひました。何度《なんど》も何度《なんど》も雄鷄《おんどり》は木《き》の枝《えだ》へ上《のぼ》りまして、そこから飛《と》ばうとしましたが、その度《たび》に羽《はね》をばた/″\させて舞《ま》ひ降《お》りてしまひました。
百舌《もず》には笑《わら》はれる、鶸《ひは》にも笑《わら》はれる、そのうちに雄鷄《おんどり》は餌《え》を欲《ほ》しくなりましたが、林《はやし》の中《なか》にある木《き》の實《み》や虫《むし》はみんな他《ほか》の鳥《とり》に早《はや》く拾《ひろ》はれてしまひました。誰《だれ》も雄鷄《おんどり》のために米粒《こめつぶ》一《ひと》つまいて呉《く》れるものも有《あ》りませんでした。でも、この雄鷄《おんどり》は若《わか》かつたものですから、どうかして飛《と》んで見《み》たいと思《おも》ひまして、木《き》の枝《えだ》へ上《のぼ》つて行《い》
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