曾《きそ》へ歸《かへ》つて見《み》ますと、その度《たび》にあの山《やま》の中《なか》も變《かは》つて居《ゐ》ました。しかし父《とう》さんの子供《こども》の時分《じぶん》に飮《の》んだふるさとのお乳《ちゝ》の味《あぢ》は父《とう》さんの中《なか》に變《かは》らずにありますよ。
太郎《たらう》よ、次郎《じらう》よ、お前達《まへたち》も大《おほ》きくなつたら父《とう》さんの田舍《ゐなか》を訪《たづ》ねて見《み》て下《くだ》さい。
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      ふるさとの後《のち》に

この本《ほん》は前《まへ》に出《だ》した『幼《をさな》きものに』と姉妹《しまい》のやうにして出《だ》します。あの佛蘭西《ふらんす》土産《みやげ》には、父《とう》さんのお話《はなし》ばかりでなく、佛蘭西《ふらんす》の方《ほう》で聞《き》いて來《き》たいろ/\なお話《はなし》も入《い》れて置《お》きましたが、この『ふるさと』には父《とう》さんのお話《はなし》ばかりを集《あつ》めました。この本《ほん》が出來《でき》ましたら、木曾《きそ》の伯父《をぢ》さんの家《うち》に勉強《べんきやう》して居《ゐ》る三|郎《らう》のところへも一|册《さつ》[#ルビの「さつ」は底本では「さい」]送《おく》りたいと思《おも》ひます[#「ます」は底本では「すま」]。
父《とう》さんはこの少年《せうねん》の讀本《とくほん》を書《か》かうと思《おも》ひ立《た》つた頃《ころ》に、別《べつ》につくつて置《お》いたお話《はなし》が一つあります。それは『兄弟《きやうだい》』のお話《はなし》です。それをこの本《ほん》の後《のち》に添《そ》へようと思《おも》ひます。
こゝにそのお話《はなし》があります。
早《はや》く眼《め》がさめても何時《いつ》までも寢《ね》て居《ゐ》るのがいゝか、遲《おそ》く眼《め》がさめてもむつくり起《お》きるのがいゝか、そのことで兄弟《きやうだい》が爭《あらそ》つて居《ゐ》ました。
そこへこの兄弟《きやうだい》の祖父《おぢい》さんが來《き》まして、
『まあ、お前達《まへたち》は何《なに》をそんなに爭《あらそ》つて居《ゐ》るのです。』
と尋《たづ》ねました。
兄《あに》が言《い》ふには、
『祖父《おぢい》さん、私《わたし》は早《はや》く眼《め》がさめました。そのかはり何時《いつ》までも寢《ね》て居《ゐ》ました。弟《
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