《つ》れて行《ゆ》きまして、伯父《をぢ》さんが自分《じぶん》で床屋《とこや》をつとめました。
面白《おもしろ》い床屋《とこや》がそこへ出來《でき》ました。腰掛《こしかけ》はお家《うち》の踏臺《ふみだい》で間《ま》に合《あ》ひ、胸《むね》に掛《か》ける布《きれ》は大《おほ》きな風呂敷《ふろしき》で間《ま》に合《あ》ひました。床屋《とこや》をつとめる伯父《をぢ》さんの鋏《はさみ》は、祖母《おばあ》さん達《たち》が針仕事《はりしごと》をする時《とき》に平常《ふだん》使《つか》ふ鋏《はさみ》でした。
この伯父《をぢ》さんは若《わか》い時分《じぶん》から神坂村《みさかむら》の村長《そんちやう》をつとめたくらゐの人《ひと》でしたが、なにしろ床屋《とこや》の方《はう》は素人《しろうと》でしたから、友伯父《ともをぢ》さんの髮《かみ》をヂヨキ/\とやるうちに、長《なが》いところと短《みじか》いところが出來《でき》て、すつかり奇麗《きれい》に刈《か》りあげるのはなか/\大變《たいへん》な仕事《しこと》でした。
鷄《にはとり》は驚《おどろ》いて、桐《きり》の木《き》の下《した》に頭《あたま》をさげて居《ゐ》る友伯父《ともをぢ》さんの方《はう》へ飛《と》んで來《き》ました。そして、髮《かみ》を刈《か》つて貰《もら》つて居《ゐ》る友伯父《ともをぢ》さんの側《わき》で鳴《な》きました。長《なが》いことお馴染《なじみ》の友伯父《ともをぢ》さんが東京《とうきやう》へ行《い》つてしまふので、お家《うち》の鷄《にはとり》もお別《わか》れを惜《をし》んで居《ゐ》たのでせう。
五八 お別《わか》れ
山家《やまが》では何《なに》かある度《たび》にお客《きやく》さまをして、互《たがひ》に呼《よ》んだり呼《よ》ばれたりします。[#底本では「。」が脱字]いよ/\父《とう》さん達《たち》が東京行《とうきやうゆき》の日《ひ》もきまりましたので、お隣《とな》りのお勇《ゆう》さんの家《うち》では父《とう》さん達《たち》をお客《きやく》さまにして呼《よ》んで呉《く》れました。その晩《ばん》は伯父《をぢ》さんも友伯父《ともをぢ》さんも呼《よ》ばれて行《ゆ》きましたが、『押飯《おうはん》』と言《い》つて鳥《とり》の肉《にく》のお露《つゆ》で味《あぢ》をつけた御飯《ごはん》の御馳走《ごちさう》がありましたつけ。
父《と
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