の養母の側に窮屈な思いをして寝ることに成ったが、朝も暗いうちから起きつけた彼女は早くから眼が覚めてしまって、なかなか自分の娘の側に眠るようなわけにはいかなかった。静かに寝床の上で身動きもせずにいるような隣のおばあさんの側で枕もとの煙草盆《たばこぼん》を引きよせて、寝ながら一服吸うさえ彼女には気苦労であった。のみならず、上京して二日|経《た》ち、三日経ちしても、弟達はまだ彼女の相談に乗ってくれなかった。成程《なるほど》、弟達は久しぶりで姉弟《きょうだい》三人一緒になったことを悦んでくれ、姉の好きそうなものを用意しては食膳の上のことまで心配してくれる。しかし、肝心の相談となると首を傾《かし》げてしまって、唯々姉の様子を見ようとばかりしていた。おげんに言わせると、この弟達の煮え切らない態度は姉を侮辱するにも等しかった。彼女は小山の家の方の人達から鋏《はさみ》を隠されたり小刀を隠されたりしたことを切なく思ったばかりでなく、肉親の弟達からさえ用心深い眼で見られることを悲しく思った。何のための上京か。そんなことぐらいは言わなくたって分っている、と彼女は思った。
 到頭、おげんは弟達の居るところで、
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