ある女の生涯
島崎藤村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)甥《おい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|覗《のぞ》きに来る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
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 おげんはぐっすり寝て、朝の四時頃には自分の娘や小さな甥《おい》なぞの側に眼をさました。慣れない床、慣れない枕、慣れない蚊帳《かや》の内《なか》で、そんなに前後も知らずに深く眠られたというだけでも、おげんに取ってはめずらしかった。気の置けないものばかり――娘のお新に、婆やに、九つになる小さな甥まで入れると、都合四人も同じ蚊帳の内に枕を並べて寝たこともめずらしかった。
 八月のことで、短か夜を寝惜むようなお新はまだよく眠っていた。おげんはそこに眠っている人形の側でも離れるようにして、自分の娘の側を離れた。蚊帳を出て、部屋の雨戸を一二枚ほど開けて見ると、夏の空は明けかかっていた。
「漸《ようや》く
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