構ふるに適するものならず。其第一の理由は、到底今日を以て往古の古神学を用ふる事能はざること是なり、即ち古神の詩歌に入るは少くも古神に対する信仰ある時代にあらざれば不可なり、「フオウスト」を構へたるギヨオテは近世の鬼神を中古の物語に応用したるなり、古代の鬼神を近代の物語に箝《は》めて玄妙なる識想を愬《うつた》へんとするは、到底為すべからざる事なり。再言すれば我国の古神は既に文学上に於て死神なり、いかなるジニヤスの力を以ても復活せしむべからざればなり。其第二の理由は、我国の古神は霊躰にあらずして人間なること是なり、出没自在の神通力あるにあらず、宇宙万有を統治するものにあらず、報罰の全権を掌握するものにあらず、其天界に領有するところ多からず、ジニヤスの力ありとも是を仮用するに道なからむ。第三の理由は、其複数なること是なり、前に言ひたる事あれば重ねて説かず。斯の如く我邦《わがくに》の文学は古神学に恵まるゝところ極めて少なし。
仏教侵来以後の日本は、他界に対する観念の発達大に著るしきを示せり。然れども想像的鬼神の輸入あると共に一方に於ては、万葉時代に行はれたる単純なる、「自然力」に対する恐怖を
前へ
次へ
全14ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング