。「義理と情《なさけ》には脆《もろ》くして人一倍の泣虫」(八十五頁)と佐太夫には言はせたれど、この義理と情にも我が粋癖はうち勝つ者なる事は、読者の酌《く》み取る余情に任せたり。「佐太夫|居常《つねに》寛濶を好み云々」(八十一頁)と著者は言ひたれども、其寛濶も、粋癖と相戦ひて恐ろしき毒気を吐くことあるをも、読者の見るまゝに任せたり。人生栄枯の大理も読むまゝに読ませたり。好色本として粋を画かず、粋の理想を元として粋を画きたるところ、余が此篇に向つて感ずるところなり。余は此著の価直を論ぜんと試みしにあらず、此著を読み去る間に余が念頭に浮びたる丈の粋の理を摘んで、斯くは筆になしたるのみ、若し粋の本体に至りては他日更に詳論するところあるべし。
[#地から2字上げ](明治二十五年二月)
底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「透谷全集」博文館
1902(明治35)年10月1日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
2006年4月28日作成
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