導くまゝに家の中《うち》あちこちと見物しけるが、華美を尽すといふ程にはあらねど、よろづ数奇《すき》を備へて粋士の住家とは何人《なにびと》も見誤らぬべし。間数も不足なき程にあれば何をか喞《かこ》つべきと思ふなるに、俳翁|頻《しき》りに其|狭陋《けふろう》なるをつぶやきて止まず。一向に心得ねば、笑つて翁に言ひけるやう、御先祖其角の住家より狭しと思すにやと。俳士をして俗に媚《こ》ぶるの止むを得ざるに至らしめたるものあるは、余と雖《いへども》之を知らぬにあらねど、高達の士の俗世に立つことの難きに思ひ至りて、黙然たること稍しばしなりし。
[#地から2字上げ](明治二十二年十月)



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「女學雜誌 三三〇號」女學雜誌社
   1892(明治25)年10月22日
入力:kamille
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年10月6日作成
青空文庫作成ファイル:
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