なれ。彼は偽学偽弁に長じたるパリサイ人を罵《のゝし》れり、彼は罪に充《み》ち汚れに満てるサマリヤの女を救ひに入らしめたり、彼は生命《いのち》を人間に備へたり、彼は死を人間より絶たんとせり、凡《およ》そ斯《かく》の如きことは極めて平々坦々たるが如しと雖《いへども》、其実は無量の深味あるなり。人生は吾等が生存する儘の人生にて止《や》むべきにあらず、上よりの生命あり、下よりの死あり、人生といふものは其まゝなれど、生命の奥義、死の深淵は容易《たやす》く知り得べきところにあらず。容易く知り得べからざるものを容易く人間に施したるは、イヱスのイヱスたる所以《ゆゑん》なりと云ふべし。
人生に満足するの道二つあり、其一は何事にも頓着せずして世を渡ること是《これ》なり。其二は知識を以て人生を知覚したる上にて世を渡ること是なり。頓着なきものは福《さいはひ》なり、知識あるものも亦た福なり、然れども之は世界的に福なるものにして、真に福なるものならず。イヱスは敢て人間をして悉《こと/″\》く人生《ライフ》を観察せしむることを命ぜず。むしろ人生に就きての深き研究を退けたまへり。頓着なきものも知識あるものも主の前に
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