と欲す。
(2)[#「(2)」は縦中横] 今の思想界に於ける創造的勢力
つら/\今の思想界を見廻せば、創造的勢力は未だ其の弦《つる》を張つて箭《や》を交ふに至らず、却《かへ》つて過去の勢力と、外来の勢力とが、勢を較して、陣前馬|頻《しき》りに嘶《いなゝ》くの声を聞く、戦士の意気甚だ昂揚して、而して民衆は就く所を失へるが如き観なきにあらず。
見よ、詩歌の思想界を嘲《あざけ》るものは、その余りに狭陋《けふろう》にして硬骨なきを笑ふにあらずや。見よ、政治を談ずるものは、空しく論議的の虚影を追随して停まるところを知らざるにあらずや。見よ、デモクラシーは宿昔《しゆくせき》の長夢を攪破せんとのみ悶《もが》き、アリストクラシーは急潮の進前を妨歇せんとのみ噪《さわ》ぐにあらずや。斯の如き事たる素《もと》より今の思想界の必当の運命たるべしと雖《いへども》、心あるもの陰に前途の濃雲を憂ふるは、又た是非もなき事共かな。今の思想界は実に斯の如し、徒らに人間の手を以て造化の力を奪はんとする勿《なか》れ、進むべき潮水は遠慮なく進むべし、退くべき潮水は顧眄《こべん》なく退くべし、直ちに馳せ、直ちに
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