を覗《うかゞ》へり。「死」は近づけり、然れどもこの時の死は、生よりもたのしきなり。我が生ける間の「明」よりも、今ま死する際《きは》の「薄闇《うすやみ》」は我に取りてありがたし。暗黒! 暗黒! 我が行くところは関《あづか》り知らず。死も亦た眠りの一種なるかも、「眠り」ならば夢の一つも見ざる眠りにてあれよ。をさらばなり、をさらばなり。

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 透谷庵主、透谷橋外の市寓に倦《う》みて、近頃|高輪《たかなわ》の閑地に新庵を結べり。樹|幽《かすか》に水清く、尤《もつと》も浄念を養ふに便あり。適《たまた》ま「女学雑誌」の拡張に際して、主筆氏の許すところとなりて、旧作を訂し紙上に載せんとす。こは其第一なり、もしそれ全篇の佶屈※[#「敖/耳」、第4水準2−85−13]牙《きつくつがうが》にして、意義も亦た諒し難きところ多きに至りては、余の文藻に乏しきの罪として、深く責め玉はざらんことを願ふ。たゞ篇中の思想の頑癖に至りては、或は今日の余の思想とは異るところなり、友人諸君の幸にして余が為に甚《いた》く憂ひ玉はざらんことを。
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[#地から2字上げ](著者附記)
[#地から2字上げ](明治二十六年六月)



底本:「現代日本文學大系 6 北村透谷・山路愛山集」筑摩書房
   1969(昭和44)年6月5日初版第1刷発行
   1985(昭和60)年11月10日初版第15刷発行
初出:「女學雜誌 三二〇號」女學雜誌社
   1892(明治25)年6月4日
入力:kamille
校正:鈴木厚司
2005年5月18日作成
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