くな》きは何故ぞ。ギヨオテの鬼才を以て、後人をして彼の頭《かしら》は黄金《こがね》、彼の心は是れ鉛なりと言はしめしも、其恋愛に対する節操全からざりければなり。バイロンの嵩峻を以ても、彼《か》の貞淑寡言の良妻をして狂人と疑はしめ、去つて以太利《イタリー》に飄泊するに及んでは、妻ある者、女《むすめ》ある者をしてバイロンの出入を厳にせしめしが如き。或はシヱレイの合歓《がふくわん》未だ久しからざるに妻は去つて自ら殺し、郎も亦《ま》た天命を全うせざりしが如き。彼の高厳荘重なるミルトンまでも一度は此轍《このてつ》を履《ふま》んとし、嶢※[#「山+角」、63−上−15]《げうかく》豪逸なるカーライルさへ死後に遺筆を梓《し》するに至りて、合歓|団欒《だんらん》ならざりし醜を発見せられぬ。其他マルロー、ベン・ジヨンソン以下を数へなば、誰か詩人の妻たるを怖れぬ者のあるべき。
 思想と恋愛とは仇讐なるか、安《いづく》んぞ知らむ、恋愛は思想を高潔ならしむる※[#「女+爾」、第4水準2−5−85]母《じぼ》なるを。ヱマルソン言へる事あり、尤も冷淡なる哲学者と雖《いへども》、恋愛の猛勢に駆られて逍遙徘徊せし少壮な
前へ 次へ
全16ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング