−58]焉《ばくえん》たる大空の百千の提燈を掲げ出せるあるのみ。

     其二

 われは歩して水際に下れり。浪白ろく万古の響を伝へ、水蒼々として永遠の色を宿せり。手を拱《こま》ねきて蒼穹を察すれば、我れ「我」を遺《わす》れて、飄然《へうぜん》として、襤褸《らんる》の如き「時」を脱するに似たり。
 茫々乎たる空際は歴史の醇《じゆん》の醇なるもの、ホーマーありし時、プレトーありし時、彼の北斗は今と同じき光芒を放てり。同じく彼を燭《て》らせり、同じく彼れを発《ひ》らけり。然り、人間の歴史は多くの夢想家を載せたりと雖《いへども》、天涯の歴史は太初より今日に至るまで、大なる現実として残れり。人間は之を幽奥《ミステリー》として畏《おそ》るゝと雖、大なる現実は始めより終りまで現実として残れり。人間は或は現実を唱へ、或は夢想を称《とな》へて、之を以て調和す可からざる原素の如く諍《あらそ》へる間に、天地の幽奥は依然として大なる現実として残れり。

     其三

 われは自《みづ》から問ひ、自から答へて安らかなる心を以て蓬窓《ほうさう》に反《かへ》れり。わが視《み》たる群星は未だ念頭を去らず、静
前へ 次へ
全4ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング