ろのものゝ心裡を写出する一節絶筆なり。
「こゝは処も桂川」、最前の起句を再用して、「造化の筆はいまもなほ、悲惨の景色うつしいで、我はた冥府《よみ》の人なりき」といふ末句の如き、千鈞の重ありと云ふべし。これより急調に眼を過ぐるものを言ひ、「三ツ四ツおちし村雨は、つゝみかねたる誰《た》が涙かな」にて結び、更に「玉鉾《たまぼこ》の道は小暗し、たどりゆく繩手はほそし、松風の筧《かけひ》の音も、身にしみていとうらかなし、」と巧麗婉艶の筆を以て、行路の詩人の沈痛なる同情を醒起す。これより漸く佳境に進みて「影なる人のかたる」を言ひ、或は平瀉《へいしや》、或は急奔、遂に「われらが罪をゆるせかし、犠牲《にへ》となりしは愛のため」にて全篇を結べり。余は残花氏の巧妙と幽思、この篇にて尽くるを見る、明治の韻文壇、斯かる佳品を出すもの果して幾個かあらむ。
試《こゝろみ》に余をして簡約に情死に就きて余が見るところを言はしめよ。
人の世に生るや、一の約束を抱きて来れり。人に愛せらるゝ事と、人を愛する事之なり。造化は生物を理するに一の法を設けたり、禽獣鱗介に至るまで、自《おのづ》からこの法に洩るゝ事なし。之ありて
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
北村 透谷 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング