の体は何んとしたことだといゝました。いゝながら人前だったが、私は半分泣いていた。身体中いたる所に紫色のキズがついている。
「あゝ、これ?」娘は何んでもないことのように、「警察でやられたのよ」といった。
それから笑いながら、「こんな非道い目に会うということが分ったら、お母さんはあいつ[#「あいつ」に傍点]らにお茶一杯のませてやるなんて間違いだということが分かるでしょう!」――それは笑いながらいったのですが、然しこんなに私の胸にピンと来たことがありませんでした。これは百の理窟以上です。
娘は次の日から又居なくなり、そして今度という今度は刑務所の方へ廻ってしまったのでした。私は今でもあの娘の身体のきず[#「きず」に傍点]を忘れることが出来ません。
中山のお母さんはそういって、唇をか[#「か」に傍点]んだ。
――一九三一・一一・一四――[#この行は行末より1字上がり]
底本:「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集(七)」新日本出版社
1985(昭和60)年3月25日初版
1989(平成元)年3月25日第4刷
底本の親本:「小林多喜二全集第三巻」新日本出
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