くさうしてゐた。と、今度はそこから一寸離れた自分の畑に歩いて行つた。母にはちつとも、そのことが分らなかつた。
あとで、母はとう/\その晩のことを云ふと、
「馬鹿だなあ」と云つて笑つた。「俺なア、俺アの畑が可愛《めんこ》くてよ。可愛くて。畑、風邪《かぜ》でもひかなえかと思つてな。」
そして、眞面目に「お前だつて、目さめれば、源や文が風邪ひかねえかつて氣ばつけて、夜着かけてやるべよ。」と云つた。
が、何時の間にか、その生命のもとでのやうな土地が、「地主」といふものに渡つてゐた。父親は、ことに、死ぬ前、そのことばかりを口にして、グヂつてゐた。源吉は、それをきく度に、子供ながら、父親の氣持が分ると思つた。源吉が地主の足にかじりついたのは、さう無意味な理由からではなかつた。「畑は百姓のものでなければならない。」さう文字通りはつきりではなくても、このことは、源吉は十一、二の時から、父親の長い經驗と一緒に考へてきてゐた。
源吉は然し、やつぱり外の百姓達と同じやうに、さういふことを、たゞぼんやり考へてゐた(――考へてゐたとは云へない程度であつたが)が、そのぼんやりした考へ? が、今度は、源吉自
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