くるときはメリケン粉の中から出て來た人のやうに身體中眞白だつた。そしてかじかんだ兩手を口にあてゝハア、ハアと息をかけた。ひげも眉も、まつ毛さへも、一本々々白く凍りついてバリ/\してゐた。外套のない百姓は、着物を絲で刺したドサ[#「ドサ」に傍点]を頭からかぶつてやつてきた。何十年か前に、兵隊に行つたとき着た、カキ色のすゝけた外套をきたのや、ボロ/\の二重※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]はしをきたのや、筒砲袖の外套をきたのや、色々だつた。教室に入ると、ストーヴがたいてあるので、それでも暖かかつた。眉やヒゲ[#「ヒゲ」に傍点]から、凍つたのがとけて、水玉を作つて頬を流れ落ちた。
 百姓の顏は、どれも、風邪でもひいた後のやうな妙にはれぼつたい、それに、煤けた、生氣のない顏をしてゐた。背中が圓くなつたのや、身體はがつしりしてゐるが、どこか不平均なところのある百姓や、毛むぢやらのや、頭がすつかり禿げて、それが一年中も陽にさらされて、赤ひようたん[#「ひようたん」に傍点]のやうになつてゐるのや、色々だつた。さういふのが二、三人づゝ一かたまりになつて、てんでに、自分達のことを話し合つてゐた。
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