。そつちが今吹雪いてゐるらしく、眞黒になつてゐた。風は時々ピユ/\と音をさして吹いた。その度に、雪が煙のやうに吹き上り、渦を卷きながら、遠くから吹きよせてきた。その渦卷がグル/\一所で渦卷いてゐたり、素晴らしい早さで移つて行つたり、急に方向を變へたりした。家の角の邊に大きな吹き溜りが出來てゐた。
寒氣がひどくなると、家の中などは夜中に、だまつてゐてもカリ、カリ、カリと、何かものの割れるやうな音がした。年寄つた百姓はテキ面にこたへて、腰がやんだり、肩が痛んだりして、動けなくなつた。
家の中にとぢこめられて、食ひ物のなくなつた百姓が停車場のある町に、買ひ物にゆく、馬の鈴が聞えた。その、リン/\とした鈴がそのまゝで凍えてゐるやうな空氣に、ひゞき返つて、しばらく、――餘程遠くへ行くまで聞えてゐた。そしてその馬橇が雪の、茫漠とした野原を、曲りくねつて、一散にかけて行くのが見えた。
雪が降り出してから、十日も經つと、百姓達は、ソロ/\この冬を、どうして過ごしてゆくかといふことを考へ出してきた。百姓達は雪を見ると、急に思ひつきでもしたやうだつた。食物がなくなつても、地主へ收めるものには手をつけ
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