なア、源吉君。地主があつたらこと云ひやがるし、坊主は又坊主の奴で、地主からたんまり貰つたもんだから、何事も佛樣のみ胸のまゝだなんてぬかすもんで、分らないのが、イヨ/\こんがらがつて分らなくなつたんだ。が、洗つたところを見れば、――何も、かも、はつきりしたもんだよ。百姓、あんまりはつきりすると自分でどうしていゝか困るのかなア。」又そこで笑つた。そして、獨りで「ウン、困るんだ。困るんから……分らないことにして置いてるんだ。」
 先生は源吉の方を見た。源吉が何か云ひ出すのを待つ、といふやうな恰好をした。が、源吉は眉をひそめたむづかしい顏を、まだ、してゐた。
「まア/\、先生樣、そつたらごと、地主樣にでも聞えたら、大變なごとになるべしよ。」
 先生はちよつとだまつてゐた。が、それからは別なことを話した。爐邊に寢てゐた由が、何かに吃驚したやうに、跳ね上つた。そして、立つたまゝポカーンとした。皆その方を見た。
「由、何ば寢ぼけてるんだ!」
 由は、それから四圍をキヨロ/\見ながら、身體を何囘もゆすつた。由の身體には虱が湧いてゐた。
「ホラ、校長さんがおいでになつてるど。」
 由は校長先生を見ると、
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