なさうに、だまつて、その後を見送つてゐることもあつた。發動機は荷物を積んだハシケを引張つてゐる時は、シキリなしにバタ/\やりながら、その度に身體をエンサ/\といふ風にゆすつて、進んでゐるとも分らない程の早さで、子供達の前を通つて行つた。「あら、モーター、汗かいて、ハアハア云つてる。」――子供達がさう云つた。
由が隣りに坐つてゐる仲間の手をつかんで、自分の心臟にあてさせ、「分るべ。ドキ/\つて云つてるべ。」と云つた。「あのモーターの、バタ/\ツていふの、人間のこれど同んじだつて、うちの姉云つてたど。」
皆は「んか」「んか」と云つて、てんでに今度は自分の胸に手をあてゝ見た。そして「んだ。」「んだ。」と云つた。
發動機船が通り過ぎると、子供達は、畑にゐる親達に、手傳ふために、てんでに走つて行つた。
二、三日して、小學校に、町からワザ/\呼んだ坊さんの説教があつた。それは、この一帶の地面をもつてゐる親方が、百姓の精神修養のために、一年に二度必ずそれをやつた。年寄つた百姓達はそれを待つてゐた。そして、かういふ事をしてくれる地主を、有難い方だ、と云つて、喜んでゐた。地主は、その度に若い娘
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