けて行つて、獨りで、とてつ[#「とてつ」に傍点]もない大きなことを仕出かした。歸つてきて、しかも、そのまゝ、そのことは一《ひと》ツ言も云はずに、むつしり[#「むつしり」に傍点]してゐた――かういふことがいくらもあつた。ウスのろ[#「ウスのろ」に傍点]だから、さうではなくて、何か、深い、しつかりしたのがあるので、さうなのだと、勝には思はれた。
 今、勝は、だから若し、源吉が役人と、ひよつこり會つたとしたら、勝はすぐ昔金持の脛にかぶりついた源吉であることを考へ、源吉が、あの棍棒で、てつきり、やらかすとしか思はれなかつた。それがまるで、「恐怖」のさそり[#「さそり」に傍点]みたいに勝の心にかぶりついてしまつた。
 二人はだまつて歩いた。ぬかる道を歩く足音だけがピチヤ/\/\と續いた。それが時々、くぼみ[#「くぼみ」に傍点]に足を落して、身體を前のめり[#「前のめり」に傍点]にのめらせたとき、亂れるだけだつた。さうしながら、勝は(勿論源吉も)前の方に氣を張つてゐた。勝が自分の家に來たとき、身體から急に力が拔けて、ヘナ/\になる程、氣を使つてゐたことを知つた。「助かつた[#「助かつた」に傍点]」
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