れないぞ。――源吉はそんな事まで想像した。然し、何より、憎い! 畜生、待つてゐやがれツ、源吉はまだすつかりハレ[#「ハレ」に傍点]の引かない痛みの殘つてゐる頬や身體をさすりながら、叫んだ。
 その晩、源吉は、ドロツプスの罐程の石油罐に石油をつめ、それを、ボロ/\になつた座布團で包んで、外へ出た。母親には、今度皮はぎに朝里の山に入ることゝ、春の鰊場のことで、石田へ相談に行つて來る、と云つて置いた。外は星もない暗い夜だつた。雪道がカン/\に凍つてゐた。源吉は身體が、さうせまいと思つても、小刻みに顫へてゐた。ひよいとすると、獨りで齒がカチ/\と打ち當つてなつた。源吉は道を急いだ。然し、歩いてゐるといふことが、水落ち[#「水落ち」に傍点]のあたりが變にくすぐつたくなつて、じつとしてゐられない程齒がゆく思はれた。しまひに源吉は小走りに走り出してしまつた。凍つてゐた空氣が兩方に分れて、後へ流れて行つた。もうどつちを向いても何んにもない處に出てゐた。何時のまにか、源吉は普通の速さにかへつてゐた。振りかへつてみると、灯りが二つ三つ暗い原ツぱにチカ/\今にも消えさうに、頼りなく光つて見えた。源吉は又ひよいと思ひついたやうに、走り出した。呼吸がはげしくなると冷たい空氣で、鼻穴がキン/\してきた。一寸すると源吉は又歩いてゐた。
 夜道では誰にも會はなかつた。
「停車場のある町」の電燈の光が、ずウと前方の黒い幕のやうな闇に文字通り點々と見える所まで來たとき、フト源吉は、立ち止つた。何かにグイと立ち向ふやうな氣持の張り[#「張り」に傍点]を感じた。
 町に入ると、源吉は用心深く、本通りでなく、家の裏、裏と歩いて行つた。町の通りは誰も、もう歩いてゐるものがなかつた。大抵の家は、電燈を消してゐた。雪がつもつて馬の背のやうになつた狹いデコボコ道を、源吉は注意深く歩いて行つた。時々、戸がガラ/\ツと開いた。それが靜まり返つた平野の町に、思つたより高く響きかへつた。源吉は何度もその音でギヨツとした。

 誰か、大きな聲で叫びながら、町の通りを、周章てゝ、走つて行つた。二、三軒の家の表戸がガラ/\と開いた。
「何んだべ。」と、隣り同志が、丹前の前を抑へながら、きゝ合つた。急に町がやかましくなつた。と思ふと、
「火事だ! 火事だ!」と叫びながら、停車場の方へ、二、三人走つて行つた。
 表に立つてゐた町の人
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