して通っていた。
「地主さんより上《う》ワ手《て》だ。――地主さんはそう悪くないんだ。吉本よ、あの蛇吉よ!」
小作人のうちではそう云っている。
「あれアダニ[#「ダニ」に傍点]だよ。」
「口の二つあるダニ[#「ダニ」に傍点]だ。」――健は自分で赤くなって云った。「一つで地主の血ばとって、もう一つで小作から吸うんだ。」
「ん。」
「地主からなら吸う血があるべども……」
健が云いかけると、みんな云わせないで、「それさ。そこさ。それが大切などこさ。」――伴がガラガラな大声をたてた。
「何かあったら、彼奴ば一番先きにヤルんだ。」
「血書」
「健ちゃ、徴兵よかったな。大した儲けだな。」――近所の小作だった。紙縒《こより》を煙管の中に通していた。「石山の信ちゃとられたものな。」
「ん、ん。可哀相なことした。」
「ところが、信ちゃ喜んでるんだとよ。――兵隊さ行ったら、毎日芋と南瓜ばかり食ってなくてもええべし、仕事だってこの百姓仕事より辛い筈もなし、んだら一層のこと行った方がええべッて……。」
「まさか……。」
「んでもよ、働き手ば抜かれてしまうべ、行《え》けるんだら親子みんなで[#
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