て貰わなけアならない事もあるし、又皆に話して貰わなけアならない事もあるし、是非一つここで……。」
「それア出来ないんだ。」
皆は急にガヤガヤ話し出した。
「ア、皆そうやっちゃ駄目だ。――静まってけれ!」
吉本が一生ケン命制した。「今度のお出は、そんな面倒なことは一切抜きにしたものだから、それは又何時かの機会にして貰いたいんだ。――頼む!」
「そうだ、そうだ、伴さん、酒席でもあるしな。」
小作のうちで、そう云うものもいた。
「どうだ! 健ちゃ、分るべ。」
めずらしく阿部も興奮していた。
「一杯食わせやがったんだね。――阿部さん、会った時やったらええでしょうさ。」
「会った時? 一人と一人でか?――駄目、駄目! ちりちりばらばらだからな。」
「……………」
健は何か不服だった。「お会い」するのは、ただ顔をみて「まア、しっかりやってくれ」というだけだった。――じゃ、その機会をつかもう、健はそう思った。
二枚重ねた座蒲団の上に、物なれたゆるい安坐《あぐら》をかいて、地主が坐っているのを見ると、外で見たときとはまるで異った――岸野の存在がその部屋一杯につまって、グイと抑えつけているよ
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