いで、手に持った。走りながら、「母さ云ってやるから!」何度もそれを繰りかえした。
 母親はすぐ裏の野菜畑の端で、末の子を抱えて小便《おしッこ》をさせていた。鶏が畠のウネ[#「ウネ」に傍点]を越えて、始終キョトキョトしながら餌をあさっている。
「ほら、とッと[#「とッと」に傍点]――なア。とッと、こ、こ、こ、こ、こッてな。――さ、しッこ[#「しッこ」に傍点]するんだど、可愛《めんこ》いから……」そして「シー、シー、シー。」と云った。
 子供は足をふんばって、「あー、あー、あば、ば、ば、ば……あー、あー」と燥ゃいだ。
「よしよし。さ、しッこ[#「しッこ」に傍点]、しッこ、な。」
 母親はバタバタする両足を抑えた。
 その時、身体をびッこに振りながら、片手に下駄を持って、畑道を走ってくる由三が見えた。それが家のかげに見えなくなった時、すぐ、土間で敷居につまずいて、思いッ切り投げ出されたらしく、棚から樽やバケツの落ちる凄い音がした。と、同時にワアッ[#「ワアッ」に傍点]と由三の泣き出すのが聞えた。
「犬餓鬼! 又喧嘩してきたな。……さ、しッこもうええか?」
 小指程のちんぽ[#「ちんぽ」に傍点
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