……」阿部は一寸考えていた。「この村にそんなもの無えんでしょう……。」
それから別のことのように、笑談らしく、「んでも、あんまり小作料ば負けてけれ、負けてけれッて云えば、地主様の方で怒って、過激思想にかぶれているなんて、云うかも知れないね。」――云ってしまってから、口のなかだけで笑った。
武田は又上ると、会の性質、目的、入会条件、事業等について説明した。余興に入り、薩摩琵琶、落語、小樽新聞から派遣された年のとった記者の修養講話――「一日講」――があり、――そして、「酒」が出ることになった。
「馬鹿に待たせやがったもんだ。」
「犬でもあるまいし、な!」
胃の腑の中に、熱燗の酒がジリジリとしみこんで行くことを考えると、日焼けした百姓ののど[#「のど」に傍点]がガツガツした。――誰でもそう酒に「ありつけ」なかった。
「今日は若い女手は無えんだと。」
「んとか?」
「又、良《え》え振りして、武田のしたごッだべ!」
それでも、女房達や胸に花をつけた役員などが、酒をもって入って来ると、急に陽気になった。
武田が股梯子をもって来て、皆から見える高いところへビラを張りつけた。
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